いつかの夜。
有楽町の駅前で、ずっと人を待っていたことがある。
その人との連絡手段は現代社会の電波の波に呑まれてしまっていたため、
東京交通会館の椅子に座り、ただひたすら、じっと待った。
顔を上げれば、新橋を髣髴させるレンガのアーチがあり、
その奥には日比谷の静かな夜空が広がっている。
右を見やれば、東京駅のスカイスクレーパーが煌々と輝く中、
空腹を満たすことだけを考えて買った屋台のパンは、しっかり銀座価格だった。
有楽町は新橋でも日比谷でも東京でも銀座でもあり、
そしてどれでもない。
コンパスを用いて、地図に東京で働く人の円を描いたら、
針はおそらく、新宿でも東京でも新橋でもなく、
東京交通会館で時間を忘れながらパンを頬張る私を刺すはずだ。
そんなことを考えていたら、
地下からむっくりと待ち人の影が浮かび上がってきた。
そのまま2人でアーチをくぐり、
山手線に乗り込んで物語は続く・・・