神田は隠れ家だ。
ここも代々木と似たような雰囲気を醸し出した、
世界と世界を繋ぐ空間である。
浜松町あたりから始まったレンガ調の高架はクライマックスを迎え、
トンネルを抜けるとオフィス街から下町へと変貌する。
角のスターバックスの窓から、
「あ!あの人はオフィス街の魔界へと誘われていく~!」
「あ!あの人は下町の遥か彼方へと消え去った!」
とトンネル内の人の往来を観察しながらドキドキするのは、
神になった気分でとても楽しい。
そんな私は一度、神田にあるお寿司屋さんに連れて行っていただいたことがある。
誘ってくれた方の行きつけの場所で、
神田の狭い小道の中に、腰くらいの低い看板が立っていた。
間口も狭く、目を凝らしていないと見過ごしてしまいそうである。
「美味しいから」と連れられて中に入ったら、
木でできた椅子とカウンターが並ぶ店内に一番乗りだった。
確かにお寿司は美味しかった。
普段マグロやサーモンなど赤身ばかり食べている私も、
コハダや名前は忘れてしまった光物などをよく食べた。
だが、何となく漠然とした違和感を感じる。
締めにお味噌汁をいただく。
店長は終始今日取れたての魚や、旬の魚について色々話してくださった。
お味噌汁を吸いながら、ふーと形ないものをため息でかき消す。
お会計も済んだ。
店を出るときに一度店内を振り返ったが、
私たちがお店に入ってから出るまで、
他に客が1人もいなかったのだ。
神田は隠れ家だ。
今日行くそのお店は、きっとあなたにしか見えない。