その日、私は原宿駅から表参道方面に向かった。
もう20時を回っていて、夜だった。
原宿駅の反対側では木がさわさわと揺れている。
私は木造の駅舎を抜けて、ネオンライトの反射の前に躍り出た。
この日は、インドネシア人の友達と会う約束をしていたのだ。
私は少し遅れている。なるべく迷わないように一直線に進む。
この時間だからおそらく夕食を一緒に食べることになるだろう。
どこでどの程度の金額の料理を食べるかが問題である。
その日は友達から家族旅行だとの連絡を受けていた。
東京に来てくれた友達にはなるべくご馳走しているが、
(そろそろ外務省から補助金が出てもいいと思う)
そうなると、稀に友達の親御さんにご馳走になる場合もある。
兄弟姉妹だけの場合もあるため、会ってみないとお店が決められない。
今日はどんな家族が何人程度来るのかと色々なパターンを想像しながら、
ディスコのようにネオンがガラスに乱射される中、小走りで向かう。
辿り着いたのは、ラフォーレ前交差点だ。
商業施設のライトが一気に私を照らす。
さあ、友達はどこだ。
すると、「CHIZUKO~!」と、
私の名前を呼ぶ声がする。
振り返ると、人混みの中から、アラビアンプリンセスにスポットライトが当たった。
友達だ。
友達をハグし、ふと後ろの人混みを見ると、違和感があるのだ。
15人ほど同じような服装の人々が、思い思いに立ち話ししている。
「家族みんなで日本に遊びに来たのよ」
後ろにいた約15人は全員、アラビアンプリンセスの家族なのだ。
いや家族、ではなく、一族で来日している。
2~3人の男性と私の友達以外は全員スカーフを巻いている女性たちで、
すごい勢いで、ある人は楽しそうに、ある人は一生懸命指示を出していた。
指示の先を目で辿ると、一族の男性の1人が地べたに座っていた。
50代くらいで、女性たちの激しい指示をなんとなくかわし、
ぷかぷかと煙を鼻からはき出している。
原宿のラフォーレ前交差点でジベタリアン?一見とても浮いている。
女子中高生、そして若者ファッション最先端の街、原宿のど真ん中の、
ラフォーレ前で地べたに座っている人なんて、この前にも後にも見たことない。
だが、その人だけを切り出すと、
地べたに座ってタバコをふかしている姿はなぜだかとても自然だったのだ。
どうしてみんなラフォーレ前で地べたに座らないのだろう?と思わせる力があった。
どこに行っても自分のペースで自分の世界観を作り出せる、
この人を地球人というのだな、と妙に心から納得した。
「お父さん、友達と夕食食べてくるから、この紙袋持ってて!」
とアラビアンプリンセスはその地球人に大量の戦利品を預け、
私と2人で近くでごく一般的な定食を食べた。
最後は愛が勝つ、ではなく、
最後は強い女性が勝つ、のも万国共通らしい。
そして1時間後に帰ってきても、
地球人はまったく同じ角、まったく同じ様子で、
ラフォーレの建物にもきらびやかなネオンにも我関せず、
夜空の下で煙との世界に浸っていた。