私はまだ、一度も新宿に勝ったことがない。
どの出口から出ればいいか分からず、集合時間に間に合わないのも、
必要な買い物が全然終わらないのも新宿。
送別会のために大人数予約していたのに取れていなかったり、
挙句の果てには飲み会の途中で歌舞伎町に脱走したり、
最悪にやらかしたのも新宿だ。
そんな負けてばかりの新宿なので、何となく苦手意識がある。
年始に、ロシア人の友達が東京に訪ねてきたので会うことになった。
外国の友達が来るたびに、いつも日本らしいものを見せてあげたいと思うのだが、
秋葉原や浅草は大抵みんなすぐ行ってしまうので、
東京で穴場的スポットを紹介してあげるのは難しい。
念のため、その友達に行きたいところがあるか聞いたところ、
「SHINJUKU!」
とのことだった。
年始早々始まる、地図子vs. 新宿。
別の駅のホームで待ち合わせ、丸ノ内線で新宿に向かう。
そういえば前違う友達を新宿御苑に連れて行ったら喜んだことがあったので、
第1ゴングが鳴る。
とともに即座に勝負が決定した。
年始だったので新宿御苑が閉まっているのである。
今日も今日とて新宿が一歩上手だ。
仕方がないので色々話しながら新宿駅方面へ歩く。
年始にも関わらず、人々は行き交い、看板はカラフルに光る。
ただ、新宿御苑だけは静寂に包まれ、開いていない。
聞けば、友達は年末を長野のスキー場で
ひたすらラーメンを食べながら過ごしたらしい。
長野になくて新宿にあるものって何なんだ・・・
「そうだ!ゴジラ見たい?」
聞くと、ゴジラは見ていないというので、センター街へ導く。
歌舞伎町の角を曲がると、いざゴジラが私たちを見下ろしている。
第2ゴングが鳴った。
振り返ると、友達はさほど感動していない。
今回も負けている。いつになったら新宿に勝てる日が来るのか。
ゴジラが嘲笑うように私を見下ろした。
お腹が減ったので何か食べることにした。
ゴジラ近辺ではお寿司屋さんしか思い付かなかったので、海鮮丼を食べる。
なんだか、昨日高級寿司を食べたと言っている気がするが、
聞こえなかったことにする。
一般的な海鮮丼を食べながら、私は友達に言った。
「それにしても、ごめんね~。年始で新宿御苑が空いてなくて残念だったね。
せっかく皇族の元庭園を見せてあげようと思ったんだけど。」
すると、ロシア人の友達が衝撃的な一言を発する。
「あ~、全然大丈夫だよ!
そういえば年末に天皇にも会ったしね。」
!??
ちょっと言っていることがよく分からない。
「年末ってほら、天皇の誕生日でしょ?
朝どこを観光しようか計画を練ってたら、
ちょうどその日が誕生日だって分かって、
皇居まで行って日の丸振ってきたよ~!面白かった~!」
天皇誕生日に日の丸を振るなんて、
日本人の私でも、半分テレビの中の話だと思っていた節があった。
そこにサハリン出身の友達の方が、実際に参加していたのだ。
友達が目の前で嬉しそうに日の丸を振る真似をする。
第3ゴングはもはや鳴りもしない。
新宿御苑が閉まっていた話ですら、どうでもよい気がしてきた。
やはり今日も新宿には勝てなかった。
ただ、今回は私が新宿に負けている方が、
世界は全体的に平和な気がした。