生きていると、逃げ出したくなる日もある。
逃げ出したいな、と思ったら、多分逃げ出した方がいい。
少し逃げ出せば気分が変わるのであれば、少し逃げ出すのだ。
そうすると、逃げ出せないと思っていたことが意外と大事ではないことに気付き、
「ふーん、こんなものか。まあ戻るか。」
と冷静に思えたりするものだ。
一度田町で、真面目に生きていることが面倒になったので、
数時間の逃亡を決めた。
さあ、どこに行く。
地面に鉛筆を立てて、「どーこだ」と倒したら、
午後の太陽と反対の方向に倒れた。
海だ。
そういえばレインボーブリッジが近い。
目的地は「レインボーブリッジのその先」に決定した。
昭和に埋め立てられるまで海だった場所である。
海の中を想像して、芝浦口へ渡る。
海岸方面に向かうと、思ったより工場だらけだった。
ビルばかりの三田口とは別世界である。
工場のお兄さんたちがタバコを吸いながら休憩している。
海に近付けば近付くほど、高架下が私にのしかかる。
突如芝浦ふ頭駅が現れたら、レインボーブリッジはもうそこだ。
レインボーブリッジからは、真っ青な空と海の開けた世界が臨めるはず。
晴れろ、私のうっぷん!
あれ・・・
レインボーブリッジへの入り口の建物に入り、
橋を渡り始めるも、予想していたのと何かが違う。
そう、レインボーブリッジを徒歩で渡る際には、
常に上を車が走っていて、空と海が開けないのだ。
おまけに、景色を見ようにも転落防止の柵がきめ細かく張り巡らされている。
やってしまった・・・
それでも頑張って柵の先に目を凝らすと、見えてくる。
大都市東京のビル群、赤い東京タワー、遠くに消えそうなスカイツリー。
青い空。広い海。彼方へ向かう舟。
余計なことは考えない。人とほとんどすれ違わない橋を、ひたすら進む。
やがて迷路のように複雑な階段に辿り着き、
やっと頭上の視界が開けて、公園への段差に到着した。
「レインボーブリッジのその先」、そこはお台場だった。
台場公園の砲台の端で静かに眺める海はとても気持ち良かった。
と、同時に何だか遠くに来てしまった気がして、少し心が焦る。
そろそろ帰らなきゃ。
「レインボーブリッジのその先」には見つめ直した現実があった。
真面目に生きるのが面倒になったなんて、うそ。
今日もいい日だった。